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本記事は…
「企業法務における弁護士の役割」
「クロスボーダー法務」
「弁護士からみた『弁護士の上手な使い方』」、
にフォーカスしています。
「企業法務」の世界における弁護士の役割
「弁護士」の業務内容のイメージ
突然ですがみなさまは、弁護士にお世話になったことはありますでしょうか?
一般に「弁護士に相談するべきこと」ときいて思い浮かべる内容は、以下のようなイメージなのではないでしょうか。
・交通事故に巻き込まれた…(あるいは事故を起こしてしまった…)
・事件に巻きまれた…(あるいは逮捕されてしまった…)
・相続・離婚について相談したい…
みなさまのお住まいの地域でも街中で法律事務所の看板をみかけることはあるでしょう。地域単位で、いわば法律に関する「よろずや」として法務にたずさわる弁護士は上記のような業務を取り扱っていることが多いかと思います。
上記のような業務は「一般民事」、「刑事」を専門とする弁護士が取り扱う業務となります。
事故、事件、相続等、多くのみなさまにとっては一生に何回も起きることではなく「非日常的なイベント」なはずなのですが、便宜上、業界用語としては「一般民事」と呼び分けます。
「企業法務」とは
これと区別して用いられる用語として「企業法務」というジャンルがあります。
「企業法務」とは、①企業をクライアントとして、②会社自身のアクション、あるいは会社内部の法務に関する事項について、③弁護士としてリーガルアドバイスを提供する分野をさします。
「企業法務」の世界では、ビジネスの領域自体が日々広がることにともなって、めまぐるしく業務内容が変遷しています。しかし、大別すると、「予防型」と「対処型」にわかれます。
「予防型」
・一般企業法務/ジェネラルコーポレート(会社設立/登記対応、契約書や内規のレビュー、関連法規制/レギュレーション/リーガルリスクの調査等)
・株主総会対応(招集通知や議事録等の作成、総会準備/運営/株主対応等)
・プロジェクトカウンセル(M&A/組織再編(ストラクチャーの検討、法務デューデリジェンス、契約書作成、クロージング対応、PMIサポート等)、資金調達(キャピタルマーケッツ、バンキング、プロジェクトファイナンス、アセットファイナンスにおけるアドバイザー等)等)
「対処型」
・訴訟対応(各種紛争に対する応訴、提訴、仲裁、和解等)
・危機管理(不正、不祥事、内部通報の対応全般等)
・当局対応(行政命令等の対応、ロビイング、各種届出、知的財産等の登録等)
・事業再生(倒産/破産、アーリーステージリストラクチャリング等)
・労務対応(労組対応、労働紛争に対する対応等)
上記はあくまで非常にざっくりとした整理と例示であり、実際にはもっと多くの業務内容があります。
しかも、ご相談においては、「予防」の相談から「対処」に転じる例や、「対処」をきっかけに「予防」のご相談を受ける例も多く、両者は表裏一体のものです。
「企業法務」を専門とする弁護士の内容を、あえて比喩的に、わかりやすくご紹介するとすれば、「企業のお医者さん」だと思っています。
健康診断も行いますし、手術も行いますし、薬の処方だけにしておいた方がいい(もちろん比喩的な意味です。)という意見をいうこともあります。
また、お医者さんである以上は、基本的に「企業法務」に関する全般的なアドバイスが可能ですし、(受任するか否かはさておき)「一般民事」や「刑事」に関する対応も可能は可能です。ただし、内科や外科が細分化されていくように、「企業法務」のなかでもそれぞれの弁護士が得意とする「専門分野」が存在することが多いです。
少しだけでも、「企業法務」のイメージが伝われば幸いです。
「クロスボーダー法務」について
「クロスボーダー法務」についても少し触れさせていただきます。
「クロスボーダー法務」とは、日本法以外の法域の知見を必要とする事項に関するリーガルアドバイスの提供を指す言葉です。国境を越えるというニュアンスの「cross border」に由来する表現です。
敢えて、対象を「企業法務」に絞りませんでしたが、性質上、「企業法務」の分野において使用されることの方が多いです(もちろん、国際結婚や在留に関するアドバイス、外国人が犯罪や事件の当事者となった場合、または、外国で事件に巻き込まれた場合の対処を専門とする弁護士さんもいらっしゃいます。)。
ビジネス自体が国際化をたどる中、日系企業が海外子会社を持つ場合や、海外との取引を行う場合、海外との紛争に巻き込まれる場合が増えてきました。また、海外のクライアントから日本進出や、日系企業の買収、日本における紛争等の処理のご相談を受ける事例も非常に増えています。
クロスボーダー法務においては、このような案件の中において、海外法の弁護士と連携して、あるいは日本法の弁護士としての知見を他言語に落としこむことによってリーガルサービスの提供を行う分野となります。
筆者の専門は、企業法務、とくにクロスボーダー法務です。筆者についてのお話は下記の記事でも触れておりますのでお手すきの際に是非ご訪問ください。
以降では、実際に「企業法務」にたずさわる筆者からみた、「上手な弁護の使い方」について解説していきます。
「上手な」弁護士の使い方
以下では、弁護士である筆者からみた「上手な弁護士の使い方」についてご紹介いたします。
なお、筆者が所属する団体とは一切関係なく、あくまで筆者個人の意見となります。
早速みていきましょう。以下のチェックボックスをご確認ください。
①依頼事項(スコープ)、プロダクトの粒度、期限(デッドライン)を明確にして依頼する
②こまめに担当弁護士とコミュニケーションをとる
③形式面のコメントをされないように依頼する
④横断的なアドバイスを引き出す
以降で個別に留意点を解説していきます。
①依頼事項(スコープ)、プロダクトの粒度、期限(デッドライン)を明確にして依頼する
まず依頼事項の明確化です。
いきなり矛盾したようなことを書きますが、企業法務の世界では、案件の性質上、依頼事項の内容をあらかじめ特定できない場合もあります。
例えば、緊急でとにかく早期な対処を求める案件、そもそもどのようなリーガルリスクがあるか未知であるため依頼内容の深さが見えない案件等がこれに該当します。
他方で、プロジェクトものであるため会社内で予算があらかじめ限定されている案件、いくつかの事務所で見積もりをとって費用対効果をみて正式に依頼をするつもりである案件等もあるかと思います。
様々な事情で依頼を検討することになると思いますが、どんな事情であれ、まずは絶対に依頼したい内容を伝えてみてください。
緊急性、専門性、マンパワーの必要性、コンフリクト(関連する当事者から既に案件を引き受けている場合等)の事情から、そもそも受任できない場合もあります。
したがって、まずは依頼しようとしている弁護士事務所が受任可能なのかを確認しましょう(コンフリクトチェック自体に時間を要する場合もあります。)。
受任が可能であることの確認がとれたら次に、費用感、スピード感を確かめてみましょう。
企業法務の世界では、基本的にタイムチャージ制(案件処理に費やした時間に時間あたりの単価をかけてリーガルフィーを算定する方法)を採用しています。
タイムチャージ制のもとで、依頼内容に早さや深さを求める場合には、基本的にはマンパワーと処理時間を要するため、費用が高くなります。
案件の重要性にもよりますが、依頼内容によっては費用をカットしすぎることはリスクを伴います。
受任する以上、手抜きということは絶対ありません。しかし、受任する側としては予算を制限されすぎると、処理にかける時間を減らすように工夫して対応せざるをえません。依頼者側の積極的な協力をもってしても、予算内で処理し切れる内容でない場合は、結局は受任できない、または、追加フィーの発生の可能性を前提に受任するのどちらかになります。
したがって、両者にとって良い内容となるように、あらかじめ弁護士に期待する内容(費用感、プロダクトの粒度、納期)を明確にすることをおすすめします。
案件の性質によっては、合理的な費用の範囲で、何よりもスピードを優先させるべき場合もあります。この場合でも、担当弁護士の単価を確認したり、一定のフィーを超えるようであれば連絡をするようにさせたり、作業内容の開示(いわゆるディスクリプションの明示)を求めることも大切だと思います。
スピードを最優先にしないとしても、重要な案件であるため、リサーチやプロダクトのクオリティの最大化を要求する案件もあると思います。この場合でも、依頼事項を明確化しておくことで、不必要な部分に対する人的リソースの投下を防ぐことができます。
予算の総費用感をあらかじめ確認しておき、例えば月次で費やした時間と作業内容を開示させ、依頼内容・納期をなるべく明確にして依頼することが望ましいと思います(受任する側としてはこれをまとめることも負担なのですが、双方の信頼関係が出来上がるまでは、このような作業を明確化する方がよいと個人的に思っております。)。
②こまめに担当者とコミュニケーションをとる
次に、担当者とのコミュニケーションについてです。
上記の通り、基本的に弁護士に作業させる時間を増やすと費用が増える仕組みが多いので、あまり弁護士に電話や会議の設定を依頼しない方もいらっしゃると思います。
しかし、個人的には、案件の中で、深掘りしていいところ、深掘りさせる必要性のないところを明確にしたり、相互にレビューする時間を減らしたりする観点から、こまめなコミュニケーションをとった方が結果的に総費用がかからない場合が多いです。
したがって、進め方の確認、コメントの内容の確認、追加の質問や指示等、細かい事項をふくめて、まめに担当弁護士と連携することをおすすめします。
基本的には、1番ジュニアな担当者に連絡をとる場合が単価が安く、ジュニアを急かせば依頼者の求めるスピード感がチーム内で共有されるため、何かあればまずはジュニアに連絡することをおすすめします(弁護士は夜でも対応できる場合が多いので、ビジネスアワー外でも、急ぎであれば早めの連絡をしていただける方がありがたいと個人的に思います。もちろん人それぞれですが。)。
受任者としても、依頼者のニーズをできる限り汲み取りたいと思っているので、案件をcomfortableに進めるためにも積極的に連絡していただけると助かることが多いです。
③形式面のコメントをされないようにする
続いて、形式面のコメントをされないようにするという点についてです。
誤解されないように念押しいたしますが、形式面の体裁において手を抜くことは、それ自体がリーガルリスクです。したがって、形式面でのミスはないように心がけましょう。
例えば、契約書上で、当事者名を間違えれば権利義務の内容が全く変わってしまうので細心の注意を払う必要があります。誰もそんなところ間違えないと思われがちですが、契約書上「以下〇〇とする。」と定義語を置いているにもかかわらずこれと違う用語を使用してしまったりすると、権利義務の内容に疑義が生じてしまいます。「〇〇等」の「等」が抜けるだけで、対象範囲が変わったり、「てにをは」で権利義務の内容が変わったりするケースもあります。日本語では間違えないとしても、他言語の書類になると急にミスが発生するケースもあります。
その他、各社のフォーマットとの整合性、類似事例・先例との整合性、法規制上の文言との整合性等、一見すると「ただの日本語の問題」にみえるものの、直さざるを得ない形式面のミスも少なからずあります。
弁護士は、このようなリーガルリスクがあれば指摘する必要がある立場ですので、形式面が整っていない文書には修正をかけます。ただし、形式面の修正には時間を要しますし、内容によっては弁護士に確認する前にチェックすれば簡単に修正できるものが多く存在します。
コストを減らす観点からも、弁護士に書面の確認を求める前に、形式的なミスはなくしておきましょう。
逆に、弁護士が作った文書に形式的なミスがあれば指摘してしまって構いません。内容を確認する際に、形式的なミスには自ずと気付くはずなので、該当箇所についてはダブルチェックが甘い可能性があります(もちろん、弁護士とて、AIではないのでミスもしますが、これを牽制すること自体は問題ないと私は思います)。
逆に、形式面のチェックは依頼者で行うので、内容面で何かコメントがあれば欲しいという依頼の方法もあります。このような依頼をされれば、弁護士としても内容に影響するような形式ミスでなければスルーしてレビューしますので、レビュー時間・費用の圧縮にもつながります(その場合は依頼者の方でダブルチェックすることを怠らないでください。)。
④横断的なアドバイスを引き出す
最後に横断的なアドバイスを引き出すことについてです。
これまでの①〜③を徹底すると、受任する弁護士の立場としては、この担当者は細かく見られる方だなという印象を抱きます。
多くの場合、このような状況では求められている事項以外には余計なアドバイスはしないという方向に働きます。その方が、無駄なフィーも発生しないからです。
これ自体は良いことですが、記事の冒頭でも書かせていただいた通り、弁護士は、皆等しく、司法試験を通った法務全般の専門家です。「一般民事」でも「刑事」でも「企業法務」でも対応できるものの得意分野が多かれ少なかれあるというだけです。
したがって、信頼できる弁護士だな、予算に対してまだ依頼できる範囲に余裕ありそうだな、ディールの途中に発生した関連事項についてもアドバイスを受けたいな等思った時点で、是非「横断的なアドバイス」を求めてみてください。
専門性の高い分野を取り扱う弁護士でも、他の弁護士と連携して大抵の関連事項に対するリーガルアドバイスの提供が可能です。
このような追加の質問事項への対応力やスタンスを見極めて、いい弁護士を見つけられれば、効率的な費用で、多くのリーガルマターを処理できると思います。
もちろん、スコープ外の事項(明確にした依頼範囲の枠を超える事項)については、原則としてリーガルフィーが発生します。しかし、受任する側としても依頼者の状況をタイムリーに理解した上での追加対応となりますので、初動の負担が異なりますし、内容が大したものでなければ元の予算内で処理できてしまうこともあるかと思います。
受任者としても、信頼できないような依頼者から案件を受けること自体がリスクとなりますが、信頼できる依頼者からの依頼には誠実に早く良い質で対応したい(そして次の依頼につなげたい)と思うものです。
依頼者も良い弁護士と信頼関係を作ることが重要ですし、弁護士としても良い依頼者から案件を継続的に受任することが重要です。
このような関係になることが、私が思う「上手な弁護士の使い方」だと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
そもそも弁護士の業務内容も一般的に浸透してないと思います。ましてや「企業法務」や「クロスボーダー法務」については、あまりなじみがないことがほとんどかと思います。
しかし、グローバル化が当然となってきている現代においては、どんな規模の企業においても「企業法務」、「クロスボーダー法務」の需要はあるかと思います。
「企業法務」、「クロスボーダー法務」の弁護士に依頼する際には、多くの場合身構えてしまうと思います(実際に、性質上、費用は安くなく、依頼内容も依頼者の命運を分けるような重要な案件であることがほとんどだと思います)。
重要な依頼だからこそ、依頼者側も、あらかじめ上手な弁護士の使い方を心得ておくことが重要だと思います。
日本では、まだまだ敷居の高い依頼と認識されがちですが、この記事が多くの法務の担当者のもとに届き、より多くのリーガルマターが解決される社会になることを心より祈念しております。
※念の為、本記事を通して筆者が受任することはありません。
最後に本記事でまとめたポイントを以下に再掲します。
①依頼事項(スコープ)、プロダクトの粒度、期限(デッドライン)を明確にして依頼する
②こまめに担当弁護士とコミュニケーションをとる
③形式面のコメントをされないように依頼する
④横断的なアドバイスを引き出す
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コメント
弁護士と聞いて、ぱっと思い浮かべるのは、法廷で、検事と弁護士が
被告人を巡って争う場面ですね。⇒刑事
一般人が弁護士を利用する場あいは、離婚や相続絡みですね。
交通事故を起こした場合と巻き込まれた場合。⇒一般民事
記憶は不確かですが、アメリカとかのドラマ等に大企業が出てくる場合、
弁護士さんがチラッと出てきますね。⇒企業法務
近年では日本のドラマでも企業法務を担当する弁護士さんが出てきますね。
製品等への訴訟など不祥事があったときだけが弁護士さんの出番じゃないですよね。
事業をやると、どこかと契約書交わしたりとかしますね。
法律の専門の弁護士の力も借りた方が失敗しなくてすむんでしょうかね。
大きな企業は弁護士さんが良く出てきますよね。
ウラジーミル・アスポンさん
いつもコメントをありがとうございます!励みになります。
ご理解のとおりですね!ドラマベースでいうと、『99.9』や『HERO』は「刑事」、『リーガルハイ』は「一般民事」と「企業法務」の「対処型」、『SUIT』(スーツ)は「企業法務」なんてところですかね!おしゃるとおり、もちろん製品等への訴訟や不祥事の対応も仕事なわけですが、おすすめなのは何か起きる前の「予防」というわけです。
重要なものほど、転ばぬ先の杖で早めに弁護士に相談しておくことがのぞましいと思っております。弁護士への依頼の敷居がだんだん低くなってくることを願うばかりです!
引き続きよろしくお願いいたします。
応援に来ましたっ
弁護士さん使ったことって無いので、今後の参考になりましたっ^^
>mintさん
コメントいただきありがとうございます!大変励みになります!
日常生活ではなるべくお世話になるべきでない弁護士ですが、企業法務の世界では、むしろ予防的に積極的に活用するべきかと思っております!
いつも訪問いただきありがとうございます🐈引き続きよろしくお願い申し上げます🐈